KNOWLEDGE

SPD制作用語辞典

KNOWLEDGE

デザインの歴史から学ぶ: 失敗と成功の物語

2025.03.23

ノウハウ

デザインの世界は常に変化し続け、私たちの生活や文化に大きな影響を与えてきました。時代を超えて愛され続けるデザインがある一方で、一時的な流行で終わってしまったデザインも数多く存在します。今回は、デザインの歴史を振り返りながら、その失敗と成功から学べる教訓について考えてみたいと思います。

デザインの失敗から学ぶ教訓

ニューコークの事例

1985年、コカ・コーラ社は99年間親しまれてきた伝統的な味を変更し、「ニューコーク」を発売しました。マーケティングリサーチでは支持されていたものの、実際には消費者の大きな反発を招き、わずか79日後に元の味に戻すという決断を下すことになりました。

この事例から学べるのは、ブランドアイデンティティの重要性です。消費者は単に製品の機能や味だけでなく、そのブランドが持つ歴史や思い出、感情的なつながりに価値を見出しています。デザイン変更を行う際は、既存顧客の愛着も考慮する必要があるのです。

アップルの Newton MessagePad

1990年代初頭、アップルが発売した初期のPDA(携帯情報端末)「Newton MessagePad」は、手書き文字認識技術を売りにしていましたが、その認識精度の低さが批判を浴び、商業的な失敗に終わりました。

この失敗から学べるのは、革新的な技術であっても、ユーザー体験を最優先に考えるべきだということです。どんなに革新的な技術でも、実用性が伴わなければ市場では受け入れられません。

時代を超えて愛されるデザインの秘密

ブラウンのプロダクトデザイン

ディーター・ラムスがデザインディレクターを務めていた1960年代のブラウン製品は、「より少ないデザインがより良いデザイン(Less is More)」という哲学のもと、シンプルで機能的なデザインを追求しました。その美学は現代のApple製品にも影響を与えており、時代を超えて高く評価されています。

ブラウンの成功は「良いデザインは目立たない」という考え方にあります。製品は使用者をサポートするものであり、デザインはその機能を最大限に引き出すためにあるという考え方が、時代を超えた価値を生み出しているのです。

コカ・コーラのボトルデザイン

1915年に誕生したコカ・コーラのコンツアーボトルは、100年以上経った今でも世界中で愛されています。暗闇の中でも触っただけで識別できるように設計されたこのボトルは、機能性と美しさを兼ね備えた傑作です。

このデザインの成功は、強い識別性と時代を超えた美的価値にあります。良いデザインとは単に見た目が良いだけでなく、明確な目的を持ち、その製品やブランドの本質を表現するものなのです。

現代のデザイン課題と向き合うために

持続可能性とデザイン

現代のデザイナーたちは、美しさや機能性だけでなく、環境への影響も考慮したデザインを求められています。使い捨て文化からの脱却、修理可能性、リサイクル素材の活用など、持続可能なデザインへの取り組みが進んでいます。

例えば、パタゴニアやIKEAなどのブランドは、製品の長寿命化や修理サービスの提供、環境負荷の少ない素材の使用など、持続可能性を重視したデザイン戦略を展開しています。

インクルーシブデザイン

誰もが使いやすいデザインを目指す「インクルーシブデザイン」も、現代の重要なデザイン課題です。年齢、性別、身体能力などに関わらず、多様なユーザーにとって使いやすい製品やサービスをデザインすることが求められています。

マイクロソフトやグーグルなどの大手テクノロジー企業は、インクルーシブデザインを取り入れた製品開発を進めており、多様なユーザーのニーズに応えるための取り組みを強化しています。

デザインの未来に向けて

歴史から学ぶ最も重要な教訓は、デザインが単なる美的要素ではなく、人々の生活や社会全体に影響を与える強力な力を持っているということです。成功したデザインは、人々の真のニーズを理解し、それに対する解決策を美しく、機能的に提供するものです。

デザインの世界では、流行や技術は常に変化しますが、人間中心の考え方、使いやすさ、美しさという基本原則は変わりません。過去の成功と失敗から学びながら、より良い未来をデザインしていくことが、デザイナーに求められる使命といえるでしょう。

デザインの力を最大限に活かし、社会的課題の解決に貢献するためには、デザイナーだけでなく、企業や組織全体がデザイン思考を取り入れ、ユーザーの声に耳を傾けることが重要です。過去から学び、未来を見据えたデザインの実践が、より良い社会の実現につながるのではないでしょうか。